プロローグ　Summer Collectionは新版「日本の岩場」上でも紹介されている、人気のマルチピッチフリールートだ。三重県の山の最高峰は大台ヶ原の日出ガ岳で、ガイドブックでは私が担当している山でもある。大台ヶ原はガイドブックの取材を兼ねてライフワークのように何度も訪れている山域だが、岩場については未踏だった。大台ヶ原には、大蛇�煤A蒸籠�煤A千石�狽ﾈどの岩壁に何本かのルートが開かれている。その中でも有名なのが千石�狽ﾌSummer Collectionで、是非とも登ってみたいと思っていた。

１ピッチ目�V　易しいルンゼだがプロテクションなし、カムも使えそうにない
２ピッチ目5.10a、30m　スラブ状フェイス　このルートの厳しさを思い知る
３ピッチ目5.10a、50m　スラブ状フェイス　気持ちに余裕のでるルートだが長い
４ピッチ目(5.10c/d、15m)・５ピッチ目5.8、30m　繋げて登った。4ピッチ目は短いが厳しい。
６ピッチ目5.6、35m　草付きバンドのトラバース。気が抜けない。
７ピッチ目5.9、30m　有名なハンドトラバース。もたもたしているとパンクする。
８ピッチ目5.9、25m　高度感のあるカンテルート。
９ピッチ目5.9、35m　高度感のあるカンテからハング。最後まで楽しませてくれる。

アプローチ　sskさんがサマーコレクションに行くと奥方に伝えたら、それどこのファッションショーと言われたそうだ。ネットで実際に「サマーコレクション」をキーワードに検索してみると、ファッション関係のページがヒットする。話が逸れたが、２１時過ぎに家を出て大台ケ原の駐車場で仮眠をとった。鈴鹿からは１５０kmほどの距離だが、山間部の国道を乗り継いで走るので３時間以上かかる。この時間があれば中部山岳が射程距離に入るのでどうしても足が遠のいてしまいがちだ。

　　　
左：大台ケ原駐車場　　　　右：ビジターセンターで受付後レクチャー受講

朝起きて軽く食事をして７時半のレクチャーを受講した。２０分ほどの講習でクライミングの人はルート説明に入る手前で解放された。大台ケ原でもクライミングが認知されているようだ。この受付の段階でクライマーが３パーティー６人が入山することがわかった。１パーティーが１ピッチ４０分と計算すると、おおよそ２時間待ちということになる。急いでも仕方がないのでじっくりと構えて最悪、ヘッデン帰還を視野に入れた。

　　　　
西大台立入認定書　３０日、３１日の２枚

西大台は国立公園の利用調整地域になっているので入山するには事前の申し込みが必要で、１日１０００円の利用料が発生する。キャンセルしても料金の返金はない。少なくとも１０日前には申請しないと間に合わないので、天候をみての申し込みはできない。今回は土、日を二日分申し込んで、天気の良い方を選択することにしたが、ただでさえ雨の多い大台ケ原なので二日ともダメになることは想定内とした。予定通りいけば、１日がクライミングで、残りの1日を西大台のハイキングに充てるつもりだった。

　　　
東大台の周回コース登山口　一般道を１５分ほど歩くと水平道分岐

予定通り講習が終わり認定書に受講済みの刻印が押されいよいよ出発。車に戻り準備をして８時前に東大台の登山口から入山した。今回は先行者がいるので、アプローチにも安心感があった。一般道を１５分ほど下って行くと水平道(材木搬出用のトロッコ道)が分岐する。ここま一般登山道ではなく踏み跡もないがわかりやすい。このトロッコ道を５分ほど進むとルンゼの下降点になる。赤テープで判断できた。

　　　
トロッコ道分岐　　　　　　　　　ガレたルンゼをひたすら下る

ここからが標高差３５０mの難儀な激下りで、本日最初の核心になった。これで岩壁の規模が体感できた。容易くはなさそうだ。踏み跡は薄いが所々に赤テープがあった。右手に岩壁が見えてくるので現在位置を掴みやすいが、苔むした浮いた石が多いので注意が必要だ。ヒメレンゲ、サンショウ、ヤブデマリ、フタリシズカなどをみるとホッとした。ヤブデマリの甘い香りが谷に漂っていた。

　　　
ヒメレンゲ　　　　　　　　　　　　　　　サンショウ

　　　
ヤブデマリ　　　　　　　　　　　　　フタリシズカ

さて、右手に岩壁が接近するといよいよ取り付き点だ。少し下に東ノ川の支流のシオカラ谷が見えてくる。ちょうど先行した神戸からグループの最初のパーティーが登攀開始するところだった。岩壁を見上げると爽やかな青空が広がっているが天気が悪くなる前のスジ雲が気になった。岩壁は日当たりがよく暑そうだったので木陰で待機することにした。

　　　
ルンゼを下ると岩壁が見えてくる

1ピッチ目�V　40m　易しいルンゼだがプロテクションなし、カムも使えそうにない。
さて最終パーティーが登りきったところでスターをかけた。１０時３０分登攀開始、１時間２０分の待ち時間だった。優しい３０mくらいのルンゼだがノープロテクション。終了点に着くと最終パーティが登り始めるところだった。標高があるので気温はそれほど高くはないが、日差しがきつくて背中から焼かれる感じだ。もう少し日陰で待機しておくべきだった。

１ピッチ目の終了点に有名な「Summer Collection」と刻印された金属プレートがハンガーにとめられていた。実際に見るの初めてで、いよいよ始まるなという、期待感、緊張感、不安感で心が落ち着かない。

　　　
２ピッチ

　　　
１ピッチ目の登攀

２ピッチ目　5.10a、30m　スラブ状フェイス　このルートの厳しさを思い知る。２ピッチ目が長くて難しいのでここで再び３０分の待ち時間が発生しやはり、予想通り２時間の待ち時間になった。朝の出発を早めない限り、１日に５パーティーを越えると難しいかもしれない。さて２ピッチ目だが、sskさんリードでスタート。ここが最初の核心ピッチ。実際に取り付いてみるなり、容易くはないということをか体感した。sskさんがワンテン入る。私も同じところでバランスが悪く不意にA0してしまった。ボルト間隔が狭く思い切って攻められるが、ルートが長く険しいので消耗戦になりそうな予感がした。力を出し惜しみしては登れないが、これから先も続くのかと思うとまともに勝負するとガス欠になってしまいそうだ。

　　　
２ピッチ目をリードするsskさん　　　　　　　　　　登攀開始のうさぎ

　　　
出だしから手があまく、しっかりと足を上げることに集中した。

中盤から壁が立ってくるあたりが核心

このピッチだけなら、充実感のあるいいピッチだった、と振り返れるゆとりもあろうが、サマーコレクションは始まったばかりで、これから先、ピッチがまだまだ続く。事前に何度もルートを確認してはいるが実際とは違う。

３ピッチ目　5.10a、50m　スラブ状フェイス　気持ちに余裕のでるルートだが長い。
２ピッチ目でこのルートの厳しさを体感することになった。次のピッチもそのつもりで臨んだが意外と核心部分は短くて少しゆとりの持てるピッチとなった。岩場に咲くシモツケを撮影するゆとりもあった。がしかし、ルート中の核心ピッチはこの次。

　　　
凹角をごそごそとやるので落石注意　　　　　　　ビレイポイントにて

ビレイポイントはどのピッチもしっかりとしていて、ハンガーが２つ、フィクスステンレスが２つで、どこからでも撤退できそうだ。

　　　
3ピッチ目をリードするsskさん

３ピッチ目は凹角部分を使うので石屑がたまっていて落石しやすい。先行者のぱらぱらと落としてくるので気が抜けない。小石くらいのやつがヘルメットをかすめた。たのみますよ！おとさないで！

　　　
３ピッチ目はゆとりがある

　　　
徐々に高度感が増してくる

　　　
３ピッチ目　　　　　　　　　　　　　　岩場に咲くシモツケ

４・５ピッチ目　(5.10c/d、15m)　繋げて登った。4ピッチ目は短いが厳しい。ルート中の核心といえる。さて４ピチ目の終了点はハンギングビレイになるということなので５ピッチ目をつなげて登ることにした。先行パーティーもそうしていた。先行は６０mシングルを使っていたので余裕がありそうだが、我々はダブル５０mなのでトポの５０mを信じつなげた。

核心部分を攻めるsskさん、クリップ寸前でフォール

核心は薄かぶりのところ。スタンスが見つからない。手は甘いピンチとカチのみ。しかも少しかぶっているので長居はできず、ムーブが決まらないと辛くなる。sskさんもここで動きが止まる。こちらもフォールに備える。アンバランスな姿勢でクリップしようとした瞬間にフォール。クリップ寸前だったので落ち幅も大きく推定５mフォール。再チャレンジは学習効果を生かし無事通過。

先行パーティーのロープ

さて我々の登攀になった。身構えて登り始める。壁が立ってくるところまではスムーズ。核心部は下から見ていると短いように思ったが、実際はピン３本くらいの距離がある。ムーブが決まる前に腕がパンクしそうだ。前を行くうさぎの動きが止まった。リーチがないので手も足も出ない様子。A0でもダメなのでロープスリングをかけて２箇所のA1でギリギリ通過。こちらはフィフィでレストしながらも、なんとか抜けたかったが２箇所でA0してしまった。この１５mのワンピッチだけならムーブさえわかれば抜けられそうだが、このピッチだけどこかへ持って行って練習したいなと思った。

　　　
意気揚々とスタートしたが。。。

　　　
レスト　　　　　　　　　　　　　　　　　　A1

この核心を抜けると残りは３０mのフェイスで草付きバンドへ。ここでなぜ６０mシングルが必要な判明。草付きバンドへは５０mで足りたが、次のトラバースの開始点までは少し足りないのだ。われわれはここで短く繋いだ。結論は５０mでも大丈夫ということ。

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